宇野重吉先生の話

宇野先生の言葉
米倉斉加年が宇野重吉にはじめて会ったのは、劇団民藝の研究所である水品演劇研究所に入所して1週間ほどったた時のことだそうである。劇団代表の一人として新入生に対して話しをしたのだと思うが、宇野重吉先生は「なぜ演劇を志したかと」いう問を出した。
『世界人類の平和のために』 と答えた者がいて、
その若者に「何だって!? 世界人類の平和のために芝居をする? うん、それもいいけど、大きなこという前に、親を兄弟を愛し、理解しているか、そして説得出来るか。友人を隣人を、先ず身近な人を愛し理解すること、それが始まりだ。」
と話したそうである。
宇野先生は演劇の世界で相当な怪物であり、特に新劇に対して批判的な人々からは、新劇界の天皇とまで揶揄されていた。
宇野先生が演劇運動(劇団運営、鑑賞運動等)に対して大変厳格であったことは事実であるし、稽古も大変厳しかった。しかも暴力的なことは一切無かったが、宇野先生が発する言葉には容赦がなかった。新人が見学中に緊張から失神したことがある。宇野先生は新人がいればそれなりに、稽古をしていたが、その新人さんにはそれでも、宇野先生の稽古の緊張が耐えられなかったのだと思う。
だが芝居は楽しいものだ。豊かなものだ。特に宇野先生の芝居は暖かかった。
楽屋も明るく、少しでも暗いと、宇野先生は怒っていた。
勿論米倉の楽屋も明るかった。芝居の話しばかりであっても、明るく楽しかった。
世界人類のために政治はあるかも知れないが(ありえないと思うが)、芝居は身近な人への愛で作られる。そしてその身近なものへの愛があって始めて、世界人類の平和に繋がるのだと思う。